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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)2996号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕第二、(本件代物弁済予約の性質)

次に被告らの抗弁のうち(一)の(1)は(二)の抗弁のうち少くとも清算型であることが認められれば論ずるを要しない性質の抗弁であるのでこれはしばらくおき先ず(二)の抗弁及びこれに対する原告の再抗弁につき以下考える。

(一) 思うに代物弁済契約とは本来の給付に代えて他の給付をすることにより既存債務を消滅せしめるものであるが、たとえ契約において特定物件をもつて代物弁済をする旨の文言が用いられていても、その実質が本来の代物弁済契約ではなく、単にその形式を借りて目的物件から債権の優先弁済を受けようとしているに過ぎない場合がありうる(最高一小判昭和四一年九月二九日民集二〇巻七号一四〇八頁参照)そしてこの場合には債務者が弁済期に弁済しないときは債権者において或いは目的物を任意を換価処分して、その代金で(以下この場合を処分清算型という)或いは適切な評価方法による評価額に従つて自ら目的物を取得し(以下この場合を帰属清算型という)て、債権の優先弁済を受け、もし右換価金額又は評価額が元利金をこえればその超過分はこれを債務者に返還する趣旨であると解するのが相当でかかる場合は代物弁済の形式がとられていてもその実質は保担権と同視すべき(最高第一小判昭和四一年四月二八日民集二〇巻四号九〇〇頁参照)(以下併せて清算型代物弁済という)であつて、従つてかかる場合は債務者は処分清算型の場合は換価処分前にはまた帰属清算型の場合には所有権移転登記前には債務を弁済して目的物件を取戻しうる反面、債権者は清算義務を負う一種の担保権を有するに過ぎないのであるから処分清算型においては、後順位担保権者、一般差押権者など利害関係を有する第三者との関係において或る場合には、その権利主張はその債権についての優先弁済権を主張しその満足をはかる範囲に限られるべく、或いはその執行を全面的に排除したり、或いは本登記手続承諾を求めることが許されない場合があるというべきである(最一小判昭和四二年一一月一六日参照)。そして右処分型か帰属型かは別として清算型の特別担保とみるべきためには、被告ら主張の抵当権併設、合理的不均衡は一応清算型、代物弁済とみるべき要素の一つではあるが必ずしも右要素を要するものではなく、むしろ当事者の合理的意思を推測すれば、金銭債務発生原因たる契約と同時に将来の右債権の不履行に備えていわば右債権確保のために予め代物弁済をなす場合は特段の事情のない限り右清算型と推定すべきと解するを相当というべきである。

(二) 先ず清算型か否かにつき本件についてみる、先ず第一債権についての原告主張代物弁済契約についてはこれに基く所有権移転請求権保全の仮登記上の権利を原告において譲渡を受けず、少くとも登記簿上移転登記を受けていないからいずれにしろ後順位登記権利者たる被告らに対し右代物弁済による所有権取得(たとえ清算型代物弁済の担保機能の実行の限度であるとしても)の優先的効力の主張をなしえないので右第一債権に関する代物弁済契約の性質は問う必要がない。

そこで以下右性質については第二債権に関する本件代物弁済契約についてのみみることとする。<証拠>によれば、吉野産業は田和と第二債権発生原因たる貸金契約を結ぶにつき田和の右債権確保のために第二抵当権設定とともに本件代物弁済予約をなし昭和四三年四月一日には本件債権の譲受人である李との間で本件物件を代物弁済で将来同人若くはその転々譲受入により取得されることに対し異議をのべないことを約して和解金として金三〇〇万円を受領して清算的処理をしていることが認められ右に反する証拠はないので、本件代物弁済予約は前記清算型の実質担保契約たるものであると一応は推認すべきである。そこで非清算特約の原告の再抗弁(一)前段につきみるに右認定後段の事実によればむしろそれは当初から存しなかつたものと認められる。そうだとすると本件代物弁済予約は処分型か帰属型かは別として少くとも清算型担保契約であつたというべきである。よつて被告らの抗弁(二)は先ずこの限度で理由があるというべきである。

(三) つぎに右清算型契約が処分型であつたか帰属型であつたか、若くは後に後者に変更したものか(再抗弁(一))につき考える。

思うに清算型代物弁済予約の目的とするところがもともと債権担保であるところより関係者の合理的意思を解釈すれば帰属型の特約など特段の事情のない限り処分清算型と推定するを相当と解すべきである。

けだし、帰属型に比し、債務者側よりすれば金銭より高価と目される不動産たる担保物を債権者の処分着手(契約締結)まで相当の猶予を以つて取戻し、仮に処分されるとしてもその価格は観念的擬制的評価によるよりも真の交換価値に近いものとなる確率が高く、債権者側よりすれば、結局金銭で満足をうるのだから担保本来の交換価値の優先把握方法として最も合目的である上、債権残額が少額の場合においてそれより多額の受領済弁済額返還のために担保物の所有名義取得前にこの担保物を活用しえずに別途に右返還金を調達せねばならない不便を強いられ(尤も帰属型で弁済金返還義務と所有権移転登記義務が同時履行にあると考えられる場合においてであるが)なくてすむからである。

これを本件についてみるに、本件代物弁済予約の当初の債権者たる田和と吉野産業との間において担保物たる本件物件の評価方法につき特段の取り決めがなされたことについて主張立証もなく、右田和は自らの債権たる第一債権の満足を本件物件を取得することによりうることなく、他に債権を譲渡してなしていることは前第一項認定どおりである点に照らせば本件においては未だ帰属型の特約は勿論前記処分型と推定すべきことを防ぐべき特段の事情は証拠上認めるに足りないという外ない。なお、前記本項(ニ)判示の昭和四三年四月一日吉野産業と債権譲受人李との約定は、<証拠>によれば、その本旨とするところ、李が前者より第二債権とこれに附従する第二抵当権、本件代物弁済予約を譲り受ける事に対する異議のない承諾である契約の右本旨に対する附随条項としてなされたもので金三〇〇万円も右本旨及び附随条項全体に対し不可分的対償むしろ和解金として交付されたものであることが認められるので前記帰属型特約乃至は特別事情の認定根拠となりうるものではない。

そうだとすると結局本件代物弁済予約は処分清算型であるというべきである。

ついで原告らは事後である昭和四三年四月一日に帰属型特約があつたと主張するがこれを認める証拠はない。

第三、(本登記承諾請求権の存否)

以上のとおり本件代物弁済予約は処分清算型担保契約であるところ、<証拠>によれば請求原因(五)のうち、原告が昭和四三年四月一七日付翌日到達の書面で吉野産業に対し前第一(三)判示の譲受第一、第二債権につき本件物件を目的とする代物弁済予約完結権行使をしたことが認められるが第一債権に関する部分は予約上の権利は登記がなく後順位登記権利者たる被告らに右完結の効果を主張しえないこと明らかであるところ、第二債権に関する部分についても右担保契約の実行としてその許否が争われている(抗弁(二)再抗弁(二))ので以下考える。

(一)、思うに処分清算型代物弁済予約の担保権能実行のため任意処分の前提として債権者が一旦所有権を取得し第三者に本登記承諾を求めることが許されないことがあるのは前第二(一)判示のとおりであるが、それはあくまで後順位担保権者や差押した一般債権者第第三者との利害調整上債権者に担保実行のために与える権能が大きすぎそのために右第三者に必要以上の不利不便を強いる結果となるのを防ぐため、その必要やむをえない場合に限られると解すべきであつて、そして右不許可の要件も前示の債務者との利害調整上認められるようになつた処分清算型認定の要件とは自らその観点を異にして定められるべきところ、少くとも本件の如く抵当権等法定担保が併存する場合における右許されない場合の要件は特段の事情のない限り次のように解するを相当とする。すなわち、所有権取得(予約完結権行使)時における残存債権額に比し目的物件の価格が遙に大で均衡を失し、併有する抵当権に基く法定実行手続(自らの競売申立又は既存競売での配当要求)によつても十分に満足(かように法定外換価処分が禁じられた代物弁済予約は抵当権者は民法三七四条の制限を損害金等につき受けず優先配当を受けうると解すべきである。でないと債権者に酷に失する)しえその結果後順位担保権者若くは既に差押手続をとつた一般債権者が配当金をうることが明らかであるときと解すべく、そしてかかる事情は本登記承諾を求められている第三者において主張立証すべきものと解するを相当とする。けだし、右の許否はあくまで配当にあづかりうる第三者との利害調整であるから価格均衡基準時点も処分の前提としての所有権取得時とするのが合目的である(因みにこのことは、本件第一債権に関する如く根代物弁済予約の場合は結局極度額しか契約時に対比すべきものなくこれは清算型か否かの契約解釈材料となりえても対第三者関係での右均衡基準になりえないことの一事よりしても明らか)上に、法定担保では被担保債権の制限(民法三七四条)を受けたり、手続が長期化し、競落価額が低廉化する傾向が大であるのにあきたらずして生れたとみるべき処分清算型代物弁済契約を実質担保権としてその存在価値を認める限りは、いかに第三者との利害調整とはいえ、右担保の特色である法定担保の法定制限をこえた分を含む被担保債権の満足機能のみは少くとも事実上確保されなければ右承認の意義がなくなり、且つ代物弁済予約権者(債権者)に酷に失するからである。そして右価格均衡をみる場合は法定競売(強制及び任意共に)おける競落価額が通常取引価格を相当下まわるのが普通であることも十分に考慮されねばならない。従つて被告ら主張のように一般債権者又は後順位担保権者の申立により法定競売手続が開始されたとしても、このことのみから直ちに処分清算型代物弁済の固有の担保機能実行権たる本登記承諾請求が制限を受けるものでもないことはいうまでもない。よつて以上に反する被告らの主張はとらない。よつて原告らの法律的主張は右限度で理由がある。

(二) そこでこれを本件について以下考える。

(イ) (本件物件の完結時の価格)

先ず本件物件の価格を評価するには、それ自体の価額より第二債権より優先して本件物件により弁済さるべき債権総額を控除してなすべきところ、<証拠>と弁論の全趣旨によれば次の事実が認められこれを覆すに足る証拠はない。

(1) 本件土地上には原告及び被告らに対抗できない不法建物が存し、右完結直前である前同三月一二日に原告が所有兼占有者である李及び山川より九〇〇万円で買取り、その余の本件物件については吉野産業より原告において引渡を受け、現に改装の上本件土地及び地上建物全部を原告が代表者である訴外株式会社丸浅製作所の工場事務所寄宿舎として使用されている。

(2) 原告は最優先債権者として本件物件を差押えた東大阪市に対し、四一万六、六八〇円を吉野産業のために代納し、差押登記の抹消をえた。(この結果原告は地方税法一四条、二〇条の六、民法五〇〇条により右右優先債権を法定代位により取得した)

(3) 本件物件上不法建物が存し不法占有者が存する場合の本件物件の昭和四三年四月現在の評価額は金一、〇〇五万五、〇〇〇円であつて、右不法建物、不法占有のないものとした評価額は二、四一四万三、〇〇〇円である。

以上の事実関係及び前第一項判示の本件代物弁済予約に関する本件仮登記、第二抵当権より優先する第一抵当権により原告が優先弁済を主張しうる第一債権額は元本金四、一〇六、〇七九円及びこれに対する日歩七銭の割合による二年間分の損害金概算金二〇九万四、〇六一余円合計六三〇万〇、一四〇余円となるところより、本件予約完結権行使たる前記昭和四三年四月一八日現在の本件物件価格評価額を概算すれば結局不法占有負担のないものと仮定した場合は一、七四二万七、二二〇円、不法占有負担ある場合は三二三万八、一八〇円(以上(3)から右第一抵当権の被担保債権及び(2)を控除した額)を各こえないこととなる。

以上の評価に反する被告協栄産業の主張は独自の見解でとりえない。(なお<証拠>によれば当事者間に争いない被告住友商事申立の競売手続での本件不動産評価鑑定は金一八、一四八、八九四円と評価されていることが認められるが、右は不法建物中第一建物を吉野産業所有と誤認してなされたものでとりがたいが右建物評価額を控除すると約一、三〇〇万円となり、これを基準として右優先債権額を控除すれば約六三〇万円となる)

(ロ) (価格不均衡と存否)

前示第一(三)判示のとおり原告が結局第二債権につき譲渡を受け現に有する金額は元金五〇〇万円、延滞利息三〇万円、年三割の損害金の一部金一四八万三、六八〇円合計金六七八万三、六八〇円と昭和四三年一月一六日以降完済まで日歩五銭の割合による損害金であるところ、右のうちとりあえず昭和四三年一月一五日までの右第二債権と前(イ)項の本件完結時の不法占有負損ある本件物件の前記価格とを対比すれば、採用しない前記競売手続における評価額の修正によつてさえ本件物件の評価額の方が第二債権を下まわることとなる。従つて不均衡はないという外ない。

以上の次第で本件においては処分清算型代物弁済予約の完結権行使により所有権を債権者が取得するのを許さない要件は未だないという外ない。なお右許否につき原告が主張するその余(再抗弁(イ)(ロ))の点は右許否につき関連性がない。

従つて原告は本件代物弁済予約完結権行使により未だ消滅(混同しないこと明らか)していない第一債権のための第一抵当権の附着した本件物件の所有権を有効に担保権の実行手続たる換価処分の前提として取得したものというべきであつて、現に前認定のように本件物件を原告が自らの代表する工場として使用していることは右処分のための所有権取得のさまたげとなるものではない。

そうだとすると原告に対抗しえない後順位登記権者である被告ら各自は原告に対し同人が本件仮登記に基き所有権移転の本登記手続をなすにつき承諾する義務を有すること明らかである。(杉本昭一)

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